和《あ》えものの和え方は、女の化粧と同じで、できるだけ生地《きじ》の新鮮味を損《そこな》わないようにしなければならぬ。掻き交ぜ過ぎた和えものはお白粉《しろい》を塗りたくった顔と同じで気韻《きいん》は生動しない。
「揚ものの衣の粉の掻き交ぜ方だって同じことだ」
 こんな意味のことを喋《しゃべ》った鼈四郎は、自分のいったことを立証するように、鉢の中の蔬菜を大ざっぱに掻き交ぜた。それでいて蔬菜が底の方からむら[#「むら」に傍点]なく攪乱《かくらん》されるさまはやはり手馴《てな》れの技倆《ぎりょう》らしかった。
 アンディーヴの戻茎の群れは白磁の鉢の中に在って油の照りが行亙り、硝子越《ガラスご》しの日ざしを鋭く撥《は》ね上げた。
 蔬菜の浅黄いろを眼に染《し》ませるように香辛入りの酢が匂《にお》う。それは初冬ながら、もはや早春が訪れでもしたような爽《さわや》かさであった。
 鼈四郎は今度は匙をナイフに換えて、蔬菜の群れを鉢の中のまま、ざっと截《き》り捌《さば》いた。程のよろしき部分の截片を覗《うかが》ってフォークでぐざ[#「ぐざ」に傍点]と刺し取り、
「食って見給え」
 と姉娘の前へ突き出した
前へ 次へ
全86ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング