がら捉えられている。永遠に――。鼈四郎《べつしろう》はときどき死ということを想《おも》い見ないことはない。彼が生み付けられた自分でも仕末に終えない激しいものを、せめて世間に理解して貰おうと彼は世間にうち衝《つか》って行く。世間は他人《ひと》ごとどころではないと素気なく弾《は》ね返す。彼はいきり立ち武者振《むしゃぶ》りついて行く。気狂い染《じ》みているとて今度は体を更わされる。あの手この手。彼は世間から拒絶されて心身の髄に重苦しくてしかも薄痒《うすがゆ》い疼《うず》きが残るだけの性抜きに草臥《くたび》れ果てたとき、彼は死を想い見るのだった。それはすべてを清算して呉《く》れるものであった。想い見た死に身を横えるとき、自分の生を眺め返せば「あれは、まず、あれだけのもの」と、あっさり諦《あきら》められた。潔い苦笑が唇に泛《うか》べられた。かかる死を時せつ想い見ないで、なんで自分のような激しい人間が三十に手の届く年齢にまでこの世に生き永らえて来られようぞと彼は思う。
 生を顧みて「あれは、まず、あれだけのもの」と諦めさすところの彼の想い見た死はまた、生をそう想い諦めさすことによってそれ自らを至っ
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