にかかった。
畳の上には汚れ除《よ》けの渋紙が敷き詰めてある、屏風《びょうぶ》や長押《なげし》の額、床の置ものにまで塵除《ちりよ》けの布ぶくろが冠《かぶ》せてある。まるで座敷の中の調度が、住む自分等を異人種に取扱い、見られるのも触れられるのも冒涜《ぼうとく》として、極力、防避を申合せてるようであった。こうしてから自分等に家を貸し与えた持主の蛍雪の非人情をまざまざ見せつけられるようで、逸子には憎々しかった。
彼女は復讐《ふくしゅう》の小気味よさを感じながらこれ等の覆いものを悉《ことごと》く剥《は》ぎ取った。子供の眼鼻に塵《ちり》の入らぬよう手拭《てぬぐい》を冠《かぶ》せといて座敷の中をざっと叩《はた》いたり掃いたりした。何かしら今夜の良人《おっと》の気分を察するところがあって、電灯も五十|燭《しょく》の球につけ替えた。明《あかり》煌々《こうこう》と照り輝く座敷の中に立ち、あたりを見廻《みまわ》すと、逸子も久振りに気も晴々となった。しかし臆《おく》し心の逸子はやはり家の持主に対して内証の隠事をしている気持が出て来て、永くは見廻していられなかった。彼女は座布団《ざぶとん》を置き、傍にビー
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