《のぞ》いて来たが、今は台俎板の傍に立って笊の中の蔬菜を見入る。蔬菜は小柄で、ちょうど白菜を中指の丈けあまりに縮めた形である。しかし胴の肥《ふと》り方の可憐《かれん》で、貴重品の感じがするところは、譬《たと》えば蕗《ふき》の薹《とう》といったような、草の芽株に属するたちの品かともおもえる。
笊の目から※[#「さんずい+胥」、第4水準2−78−89]《した》った蔬菜の雫《しずく》が、まだ新しい台俎板の面に濡木《ぬれぎ》の肌の地図を浸み拡《ひろ》げて行く勢いも鈍って来た。その間に、棚や、戸棚や抽出《ひきだ》しから、調理に使いそうな道具と、薬味容《やくみい》れを、おずおず運び出しては台俎板の上に並べていたお千代は、並び終えても動かない料理教師の姿に少し不安になった。自分よりは教師に容易く口の利ける妹に、用意万端整ったことを教師に告げよと、目まぜをする。妹は知らん顔をしている。
若い料理教師は、煙草の喫《す》い殻を屑籠《くずかご》の中に投げ込み立上って来た。じろりと台俎板の上を見亙《みわた》す。これはいらんという道具を二三品、抽《ぬ》き出して台俎板の向う側へ黙って抛《ほう》り出した。
そ
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