食魔
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)菊萵苣《きくぢさ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この上|墜《お》ちようもない
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+胥」、第4水準2−78−89]《した》った
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菊萵苣《きくぢさ》と和名はついているが、原名のアンディーヴと呼ぶ方が食通の間には通りがよいようである。その蔬菜《そさい》が姉娘のお千代の手で水洗いされ笊《ざる》で水を切って部屋のまん中の台俎板《だいまないた》の上に置かれた。
素人の家にしては道具万端整っている料理部屋である。ただ少し手狭なようだ。
若い料理教師の鼈四郎《べつしろう》は椅子《いす》に踏み反り返り煙草《たばこ》の手を止めて戸外の物音を聞き澄ましている。外では初冬の風が町の雑音を吹き靡《なび》けている。それは都会の木枯しとでもいえそうな賑《にぎや》かで寂しい音だ。
妹娘のお絹はこどものように、姉のあとについて一々、姉のすることを覗
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