か欅《けやき》材で、上べがほんのり処女の色をして底は冷たく死のやうに落付いた二枚の板の連《つらな》りであつた。
 かの女は朝覚めて胸の中でいふ。直助よ。お前はとつくに死んでゐるのだ。それだのに昨夜また私の夢の中に見えて、猟人《かりゅうど》の姿をし、何処《どこ》までお前は川のほとりを歩いて行つたのだ……。何をおまへはまだ探してゐるのだ。


 川は墓でもなかつたのか
 川のほとりでのみ相逢《あいあ》へる男女がある。
 かの女の耳のほとりに川が一筋流れてゐる。未だ、嘘をついたことのない白歯のいろのさざ波を立てゝ――
 かの女は、なほもこの川の意義に探り入らなければならない。



底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
   1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
   1974(昭和49)年発行
初出:「新女苑」
   1937(昭和12)年5月
※ルビを新仮名遣いとする扱いは、底本通りにしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2005年12月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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