てゐるといふことである。
私は埃及の星空を眺め乍ら、私の知つてゐる限りの星座の名を想ひ出して、それを探し求めた。しかし、星座図が手元になかつたのではつきり見極めがつかなかつたが、どうやらそれらしいものをいくつか発見することは出来た。だがそれよりも私は自分で星と星との間に勝手な線を描いて、自分の好むままの空想図を組み立てて見ることの方が一層楽しかつた。東京の留守宅の半面図を描くことも、日本からヱジプトまで来た私の足跡を地図に描くことも出来た。
星を眺めてゐると、星と語つた古代人の稚純な気持ちが、自分にも見出されるやうな気がする。
秋の晴れた夜、私は星と語りによく家の屋上に昇つて行く。北の空には柄杓のかたちをした北斗七星がその柄杓の柄を東に向けて横たはつてゐる。それと少し離れて北極星が一際鮮やかに輝いてゐる。他の星が悉く夜毎に少しづつ位置を変へて行くのに北極星だけはいつも同じ位置にゐる。地軸の北端の真上にある北極星は小熊星座の主星である。この星座の形が小熊を聯想させるとは私にはどうしても受取れないが、小熊といふ名はいかにも北極の星らしく、その光質までが白光を帯びてゐるやうである。
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