の鳥獣も頸から下は人間の体をしてゐる。そして一番偉い星は天狼星で、これは完全な人間の姿をもつて現はされ、王冠を戴き笏を手にしてゐる。面白いことには群星は素足でゐるが、主立つた星は古代埃及独特の独木舟に乗つてゐる。
 古代埃及人は、地球の裏には魔者の住んでゐる暗黒の大海があつて、太陽は東から西へと一日の行程が終ると、この地球の裏の魔海を夜間舟で渡つて、翌朝までにまた元の東に帰るのだと信じてゐたといふから察するに星も亦太陽と同様に、舟で暗黒の海を渡ると考へられたのかも知れない。星を鳥獣で象徴したのは、鷹を太陽の化身と考へたのと同じ意味からかも知れない。
 満天に散在する星の一群を綴り合せて、いろいろな形を想像して出来たのが星座である。星座は人間の詩的空想の産物であつて、いかに沢山の星が天にあるからと云つても、それらが精密な物体を型造る程沢山あるわけではなく、いくつか点在する星と星との間に人間が勝手な空想の線を描いて、あるものは白鳥を象り、あるものは獅子に象つたりしたのである。従つて星座の数も造らうと思へばいくらでも際限なく出来た筈で、十九世紀頃には知られてゐるものだけでも百九十の多きに達し
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