うそ》つき」
と、小さい顎《あご》を出し、老婢がこれに対し何かあらがう様子を尻眼《しりめ》にかけながら、
「あがってもいいでしょう。ちょっと寄ったのよ」
とわたくしに言った。
わたくしは老婢が見ず知らずの客を断るのは家の慣《なら》わしで咎《とが》め立てするものではありませんと雛妓を軽くたしなめてから、「さあさあ」といってかの子を二階のわたくしの書斎へ導いた。
雛妓は席へつくと、お土産《みやげ》といって折箱入りの新橋小萩堂の粟餅《あわもち》を差し出した。
「もっとも、これ、園遊会の貰いものなんだけれど、お土産に融通しちまうわ」
そういって、まずわたくしの笑いを誘い出した。わたくしが、まあ綺麗《きれい》ねと言って例の女の癖の雛妓の着物の袖《そで》を手に取ってうち見返す間に雛妓はきょう、ここから直ぐ斜裏のK――伯爵家に園遊会があって、その家へ出入りの谷中住いの画家に頼まれて、姐《ねえ》さん株や同僚七八名と手伝いに行ったことを述べ、帰りにその門前で訊《き》くと奥さまの家はすぐ近くだというので、急に来たくなり、仲間に訣《わか》れて寄ったのだと話した。
「夏の最中の園遊会なんて野暮でしょ
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