うとしているのだ。畜生ッ。生ける女によって描こうとした美しい人生のまんだら[#「まんだら」に傍点]をついに引裂こうとしている。畜生ッ。畜生ッ。家霊の奴め」
わたくしの肩は逸作の両手までがかかって力強く揺るのを感じた。
「だが、ここに、ただ一筋の道はある。おまえは、決して臆《おく》してはならない。負けてはならないぞ。そしてこの重荷を届けるべきところにまで驀地《まっしぐら》に届けることだ。わき見をしては却《かえ》って重荷に押し潰《つぶ》されて危ないぞ。家霊は言ってるのだ――わたくしを若《も》しわたくしの望む程度まで表現して下さったなら、わたくしは三つ指突いてあなた方にお叩頭《じぎ》します。あとは永くあなた方の実家をもあなた方の御子孫をも護《まも》りましょう――と。いいか。苦悩はどうせこの作業には附ものだ。俺も出来るだけ分担してやるけれどお前自身決して逃れてはならないぞ。苦悩を突き詰めた先こそ疑いもない美だ。そしてお前の一族の家霊くらいおしゃれ[#「おしゃれ」に傍点]で、美しいものの好きな奴はないのだから――」
読書もそう好きでなし、思索も面倒臭がりやの逸作にどうして、こんないのち[#「
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