に行ってるの」
「尋常《じんじょう》のしまいだけで止《や》めた」
「何に、なり度《た》いの」
 すると、この少年は功利と享楽に就《つい》て打算が速かな現代人の眼色の動きをちょっと見せたが、すぐ霊明で而《しか》も動物的な澄んだ眼に立直って言った。
「飛行機乗りになりたいんだがおやじが許さないんだ」
「それで」
「だから、もう何にもなり度くないんだ。やっぱりこの庭の番人になるんだ」
「だけど、お友達なんかなくって淋しかないの」
「うん、あるよ、時々外から来るよ。ここへ来りゃ、みんな僕のけらい[#「けらい」に傍点]さ」
 朝子は、ふと、こういう少年の気持を探り出すのに具合のよさそうな問いを思いついた。
「島吉つぁん、どんなお嫁さん貰うの」
 すると、思いの外《ほか》少年は意気込んで来て、
「嫁かい、ふ ふ ふ ふ、今に見せてやるよ」
「まあ、もう、あるの」
「ふ ふ ふ ふ」
 朝子は二三日、その事は忘れていた。七草過ぎの朝、島吉は七つ八つの女の子を連れて書きものをしている朝子の椽先に立った。そして、何とも言わずに朝子と女の子とを見較べて、うふふふふふと笑った。片眼が少し爛《ただ》れているが
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