秋雨の追憶
岡本かの子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)印度《インド》人
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)表情|豊《ゆた》かな
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)くすぐつたい[#「くすぐつたい」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
○
十月初めの小雨の日茸狩りに行つた。山に這入ると松茸の香がしめつた山氣に混つて鼻に泌みる。秋雨の山の靜けさ、松の葉から落ちる雨滴が雜木の葉を打つ幽かな音は、却つて山の靜寂を増す。水氣を一ぱいに含んだ青苔を草履で踏む毎に、くすぐつたい[#「くすぐつたい」に傍点]感觸が足の甲をつゝむ。咲きおくれた桔梗の紫が殊更鮮かだ。濕つた羊齒をかき分けると可愛らしい松茸が雀の子のやうにうづくまつてゐた。
○
夏の初から――六月の半頃から三月以上もかけ[#「かけ」に傍点]續けてやうやく古びた竹の簾。今日は今日は
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