ではありましたが、むつつりと意味深さうに今までのいきさつを聞いてゐた兄より先に妹娘がおとうさんに問ひかけました。すると、おとうさんより先きにおかあさんがその問ひを取つて云ひました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――それは美しい、そしてしとやかであでやかな娘さんでおありでした。
[#ここで字下げ終わり]
おかあさんが口を切つたのをしほ[#「しほ」に傍点]におとうさんはおかあさんに頼みました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――おまへ、みんな私の事を知つて居る。私に代つて子供達に話してやつてお呉《く》れ。
[#ここで字下げ終わり]
さういふおとうさんの顔をつい二人の子供はちらと見やつてしまひました。おとうさんは顎鬚《あごひげ》のそりあとを艶《つや》やかに灯《ほ》かげに照らして煙草《たばこ》のけむりを静《しずか》に吐いてゐました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――おとうさんが十六七歳になりなさつた頃、おとうさんの母親はある都の或る街に住みついて其処《そこ》で小間物を商《あきな》つて居《お》られました。わづかな資本で始めた店でしたけれど非
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