簡単に語れ、子もまたそれを他人事のやうに聞ける位、長い間の自分達の現実的過誤に慣れ切つてしまつて居たのです。
 では、その子供達はともかく作者はその母親達がそんな子供の育てかたを何故《なぜ》したかと読者はあるひは詰問なさりはしませんか。作者は実は、その解釈に苦しみます。さあ、どういふ原因が其処《そこ》にあつたものか、ともかく女同志の親密な気持ちには時々はかり知れない神秘的なものが介在してゐるかと思へば極々《ごくごく》つまらない迷信にも一大権威となつて働きかけられる場合もないではないぢやありませんか。
 それはともかく、長い習慣といふものは妙なもので、親が子に明した事実は、ほんの其場《そのば》の親子の間だけの現実に過ぎないものであつて、その後また何の不思議もなく前からの習慣である女の男育ち、男の女仕立てが続きました。当人達でさへそれですもの、世間がその子供達をどちらもほんたうの見かけどほりの男女だと思ふのは無理もありませんでした。


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――おとうさんが女になつていらしつた時、どんな女でいらしつたでせう。
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