終わり]
むすめの聞きさうな事です。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――いいえ。このわたし==おかあさんの処へ来られたの。
――今度は、わしが話さう。
[#ここで字下げ終わり]
とおとうさんが二十年来むすことむすめが聞きなれたおとうさんの声で云ひました。ですが、今まで長いおかあさんのおはなしの内で娘姿にばかり想像して居たおとうさんが突然、男の声を出したので、ほんの一瞬間ではありましたが、むすめも、むすこも何か、あでやかな変怪の姿のなかから忽然《こつぜん》、おとうさんが男姿で抜け出したやうな不思議な感じがいたしました。
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――お前たち、その頃、おかあさんが、どんな男でゐたか想像がつくか。
――いいや、とても、それは難かしい。
[#ここで字下げ終わり]
むすこは全く、このはなしの中心に身を入れ切つて其処《そこ》から途方もなく開展して行き相《そう》な事件に対する好奇心の眼を瞠《みは》つて居るのでした。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――おかあさんは美青年だつたぞ。だが、まだ恋愛事件になぞ身を縛られてゐなかつた。
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