ですこし思案して『瑚※[#「王+連」、第3水準1−88−24]《これん》』とつけてやつた。どういふわけだと妻が訊《き》くから、これこれと呼ぶのに便利がいいからだと冗談半分に教へてやると、あんまり手軽すぎると不満さうだつたが、強《し》ひてことわりもせず、やがてその名のつもりになつてゐた。
尼の形になつてからのお玉が驚かれたのは、まるで気性の変つて仕舞《しま》つたことであつた。ぱつぱつと話はする。気の向くとき働くが、気の向かぬときはどこまでも不精《ぶしょう》をする。世間|態《てい》などちつとも構《かま》はなくなつて、つづれをぶら下げた着物でも平気で外へ出る。そしてむやみに笑ふやうになつた。多病でよく寝込むが、それを見舞ふとあはあは笑ふ。かうなつて来ると、却《かえっ》て自分には彼女にいつくしみが出て来るのだ。いんぎんにまめに自分の面倒を見た若いときの妻の親切といふものは、一つも心に留《とどま》つて居ないのに、綻《ほころ》びて仕舞つたやうになつた彼女が、ただわけもなくときどき自分の眼を見入るその眼を見ると、結婚して以来はじめて了解仕合つたといふ感じがするのであつた。しかも彼女は、一向もうそん
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