産はだん/\売り減らされ、妻のいはゆる所ふさげのがらくたものと形を替へた。
妻はしきりに苦情をいつた。妻の心配には理由があつた。まだ幼ない発育不良の一人息子の教育資金も他に出どころはなし、自分たちの老後の生活費も気に懸つた。家門の体面といふ事もある。それやこれやで夫の郷里の資産は出来るだけ崩潰《ほうかい》を喰ひ止めて置き度《た》い。わがまゝな夫は、将来、どんなに窮しても学問を金に替へることなどしさうもない柄であつた。
も一つ、妻の苦労の種は、夫の凝り性が、もし生ける女性にでも向けられるとなつたときの惧《おそ》れである。今こそ夫は物に溺れることを知つて、人に溺れることを知らないから無事なやうなものゝ、全然異性に対して免疫性の人間ではなささうだ。
どつちからいつても早く夫の性分のマニアを癒して、家庭的の常識人になつて貰ふことは一家の浮沈にも係る大事であつた。
夫と妻の闘争は根気よく続いた。夫が物事に偏愛執着の気振りを見せると妻は傍から引離した。夫が陶酔に入らうとすると妻は覚まして水をかけて
「何です、たかゞ土でひねつた陶《やき》ものぢやありませんか、おまけにひゞ[#「ひゞ」に傍点]
前へ
次へ
全12ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング