。丸い眼をぱち/\させながら無口でゐる私に「蛙」と言ふ仇名をさへ付けた友がゐた。
小学校から女学校へかけて、私は友人に対する蔭口とか非難が出来ず、自分のする事には絶対の責任を持たねばならぬといふ立場に追ひ込まれて随分と口惜しい悲惨な思ひをした。或る時など小学校随一の悪戯者が校門近くの道路に陥穽《おとしあな》を掘つて友達をいぢめやうとしたのを学校の垣根の蔭で眺めた私はそれをさへ先生や友達に知らせる気持になれない。だが刻々に友達が陥穽に落ちる危険が近づく、私はもう気が狂ひさうで我慢出来なかつた。そつと悪戯者の背後に駈け寄つて陥穽の上を板片で覆つて土をかぶせてカモフラージしてゐる彼を力一杯押した。彼は頭ぐるみ自分の作つた陥穽へ落ち込んで泥だらけになつて泣き出した。不断臆病であつた私がそんな大胆な手出しをしたのはよく/\の事であつた。告げ口が出来ない自分の習癖がどんなにもどかしく感じた事であらう。口で友達を救ふ事が出来ないから、せめて手で救はうとしたのであらう、その夜亢奮で眠れず微熱まで出した程であつた。
だが、かういふ内心的の苦しみは幼時から私に物事を深く考へさせるやう習慣づけた。何事で
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