もぱつと[#「ぱつと」に傍点]口に出してあけすけ[#「あけすけ」に傍点]に話してしまつたのでは物事を充分に観察し、味はふ暇がない私は自己反省に於ても人一倍強いやうになつた。自分のする事は一つ一つに考慮と全責任を持つた。今に至るも私の其の癖は残つてゐて、他人から随分重苦しいやうに見られてゐるが、私は私で、「少くとも確つかり落付いて生活してゐる意識が、私に充分あるのだから、これで良いのだ」と思つてゐる。
私の此の打ち明け話に依つても判るやうに、幼時の感じ易い頭脳に与へる小学校教師の訓戒が、子供の将来にまで力強く支配力を及ぼし、性格運命までも決定するやうな事がある。これを思ふと小学生に対する訓戒は誠に注意を要するもので、殊に廉恥心をゆすぶるやうな訓戒が一番強く子供の頭脳に響き子供の将来に及ぶのであるから、特に注意して、良心的に関聯して廉恥心を洗練するやうな訓戒は最も効果があるが、之れと反対に精神を汚辱的に打ちのめすやうな訓戒は良き性格の穂を打ちひしぐもので、大いに慎まねばならぬものである。
底本:「日本の名随筆 別巻67 子供」作品社
1996(平成8)年9月25日第1刷発行
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