たとえ癒らない病気に罹《かか》っても、生きられる限りは生きなければならないのですよ」
不断、無口でおとなしかった政枝は却《かえ》ってこの叱咤《しった》に対して別人のように反撥した。
「何故、生きなければならないの。そのわけ[#「わけ」に傍点]を云って――。それが判るまで手当受けません」
多可子はぐっと言葉に詰まった。でも、ぐずぐずしているうちに政枝の手首から多量の血が流れ出て仕舞《しま》う。多可子は焦《あせ》った。
「ええ、理由がありますとも。でも、今はあんたが亢奮し過ぎてるから、あとで落ち着いたとき、ゆっくり話す、ね。だから手当だけを受けなさい」
政枝はまだ不承知らしい顔をしていたが、「きっとですか」と多可子を瞠《にら》んで念を押した。そして間もなくぐったりして父親や医師のするままになり、やがて素直に体を横にされた。
看護婦がゴム管で政枝の腕を緊《し》めて血止めをすると、医師は急いで傷口の縫い合せにとりかかった。流石《さすが》に痛いとみえて政枝は一針毎に体をびくっ[#「びくっ」に傍点]と痙攣《けいれん》させたが、みんなの手前、意地を張ってか声一つ出さなかった。多可子は声も立て
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