女性と庭
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)詑《わ》び

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「しぶい」に傍点]
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 出入りの植木屋さんが廻つて来て、手が明いてますから仕事をさして欲しいと言ふ。頼む。自分の方の手都合によつて随時仕事が需められる。職業ではのん気な方の職業でもあり、また、エキスパートの強味でもある。手入れ時と見え、まづ松の梢の葉が整理される。
 松の花の出の用意でもある。松の花といふもの花らしくもなく、さればとて芽の軸ばかりでもない。そこに日本独特のしぶい[#「しぶい」に傍点]「詑《わ》び」の美がある。イタリー名物の傘松は実を採られ防風林に使はれる。何の求むるところなく愛される東洋の庭の松は幸福である。手入れが済んで、どうやら形がつく。
 江戸の都会詩人、其角《きかく》の句に
   この松にかへす風あり庭すずみ
 その季節もあとひと月後か。

 池の水が浸洩《しも》るやうですから繕《なほ》しながら少し模様を更へて見ませうと植木屋さんは言ふ。頼む。家庭に属するもの塵一つ見飽きるといつては済まないが、
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