沈滞の空気にところ[#「ところ」に傍点]を得させぬためにときどき時宜の模様更へは必要である。近頃の世情の如きか。
植木屋さんなかなかよく働く。「もとは植木屋といつたら、隠居の遊び相手に煙草をふかしてりやよかつたんですが、どうして此頃はお客さんの要求からして実質本位です」。そして年期奉公の外に園芸学校へも入らなければならないし京都へも留学するといふ。生活文化の激甚この有閑といはれる職業にまで及んだのか。
午前、午後、二度のお茶うけ、昼どきの箸合せ、なにかと気を配らねばならない雇傭の習慣は面倒旧式と言へばそれまでだが「してあげる」「して貰ふ」といふ何か彼此の間にスムーズなものを生む。
池に使ふ不動石、礼拝石、平浜――それは小柄のものに過ぎないが、植木屋さんは「学校の教養」と「留学」の造詣をかたむけて新古典風に造つて呉れた。日本の造庭術は、元来が理想の天地の模型である。籠り勝ちな家庭の女性の気宇を闊《ひろ》くしよう。
底本:「日本の名随筆 別巻14・園芸」作品社
1992(平成4)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十二巻」冬樹社
1976(昭和
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