りの言葉をも、とくと事情をお汲み取りなされ、念仏に通用さして下さるはもとより、只今|正定聚《しょうじょうしゅ》の数に入り、極楽往生疑いなし。女人と言えども天晴《あっぱ》れな御同行の一人じゃぞ』
おくみ『それでは「忘れまいぞやあのことを」でも大事ございませぬか』
蓮如『そなたに限って大事ない。安心して唱えやれ』
おくみ『やれ有難や忝《かたじ》けなや。此の上はどんな辛《つら》い奉公も、苦しい勤めも辛抱いたします。※[#歌記号、1−3−28]忘れまいぞやあのことを。※[#歌記号、1−3−28]忘れまいぞやあのことを。※[#歌記号、1−3−28]忘れまいぞやあのことを。何遍でも唱えさして頂きます』
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(合掌して蓮如を拝む)
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蓮如(合掌して拝を受けながら)『しかしおくみどの。「忘れまいぞやあのことを、」でも差支えない。差支えないが、「忘れまいぞ、」と自分の力で自分のこころを警《いま》しむるところにまだ自力の執《しゅう》が残っておる。これは、「忘れられぬぞあのことを、」と申す方が弥陀の方より与え給う信心を
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