まに散って行こうぞ』
源兵衛『もうすっかり、気が落附きました。さらば父者』
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(西に向き直る。)
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源右衛門『うむ、よい覚悟。わしもあとから直きに行く』
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(刀を抜いて源兵衛の首を打落す。袖を千切って首を包む。)
(幕、落ちる。)
(正面、三井寺の山門。左右へ厳重な柵が立ち並んでいる。柵内柵外の木々の紅葉は大分散り果てたが、それでもまだ名残《なごり》の色を留めて居て美しい。柵の前に燃え尽きた篝《かがり》が二三箇所置いてある。赤松の陰に「山門制戒」の高札も立っている。
法衣の上に頭巾、冑や腹巻をつけた法師が得物得物を執って固めている。武装した稚児も交っている。遠くで大勢の読経の声終る。)
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法師一『何奴《どいつ》だ、そこへ来たのは』
源右衛門(刀を提げ立《たち》はだかったまま)『本願寺浄土真宗、本寺のものだ。山科より使いに来たと、和尚さんへ取次いで下せえ』
法師二『言葉も知らぬ下司《げす》なおやじ奴《
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