まする』
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(幸子坊、おくみの方へ松明と火打袋を投げやる。おくみ感謝の涙に暮れる)
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幸子坊『さあ、これでようございます。(空を仰ぎながら)こりゃとても明るい月明り、お上人さま足元をお気を附け遊ばしませ』
蓮如『幸子坊が何のてんごう[#「てんごう」に傍点]を申すことやら、………然し此の世の中は辛いところだ。おくみにはおくみの苦労、わしにはわしの苦労がある。三界無安、猶如火宅《ゆうにょかたく》、ただ念仏のみ超世の術じゃ。さあ行こう』(涙を押える)
幸子坊『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』
蓮如『さあ参ろう』
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(おくみ、後姿を見送り合掌、幕)
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第二場
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(舞台正面、源右衛門の住家。牡蠣殻《かきがら》を載せた板屋根、船虫の穴だらけの柱、潮風に佗《わ》びてはいるが、此の辺の漁師の親方の家とて普通の漁師の家よりはやや大型である。庭に汐錆《しおさ》び松数本。その根方に網や魚籠《びく》が散らかっている。庭の上手の方にほんの仕切り
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