時代色
――歪んだポーズ
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)唾棄《だき》軽蔑《けいべつ》されるように
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センチメンタルな気風はセンチと呼んで唾棄《だき》軽蔑《けいべつ》されるようになったが、世上《せじょう》一般にロマンチックな気持ちには随分《ずいぶん》憧《あこが》れを持ち、この傾向は追々《おいおい》強くなりそうである。
飛躍する気持になり度《た》い。何物かに酔《よ》うて恍惚《こうこつ》とした情熱にわれを忘れたい。大体《だいたい》こういう気風である。だが、世上一般の実状はその反対を強《しい》ている。それだけ人々は却《かえっ》てそれを欲《ほ》っするのかも知れない。
世上一般の実状が人々に強いるものはリアリズムである。如何《いか》に苦しく醜《みにく》い現実でも青眼《せいがん》に直視せよと言うのである。然《しか》らざれば生活の足を踏み滑《すべ》らす。
リアリズムの用心深い足取りで生活の架け橋を拾い踏み渡りながら、眼は高い蒼空《そうくう》の雲に見惚《みと》れようとする。歪《ゆが》んだポーズである。此《この》矛盾《むじゅん》が不思議な調子で時
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