代を彩色《いろど》る。
純情な恋の小唄《こうた》を好んで口誦《くちずさ》む青年子女に訊《き》いてみると恋愛なんか可笑《おか》しくって出来《でき》ないと言う。家庭に退屈した若い良人《おっと》が、ダンス場やカフェ這入《はい》りを定期的にして、而《しか》もそれに満足もしない。肯定と否定とが一人の人の中に同棲《どうせい》している。そして、そのような矛盾のままで性格が固定し切っているかと思えば、そうでない。気分の動きにつれて肯定と否定の両頭《りょうとう》は直《す》ぐ噛《か》み合いを始める。今日の都会の青年子女に就《つい》て、気持ちの話になって、はっきり一つの意味の言葉を言切《いいき》る者は尠《すくな》い。必ず意味に濁《にご》りを打つか取消しの準備を言内に付け加えている。これは相手に向っての用心ばかりでなく、恐らく自分自身に向っても保証し切れないからであろう。
しかし、この矛盾に堪《た》えぬものは現代の落伍者《らくごしゃ》である。逞《たくま》しい忍耐を以《もっ》て、この歪《ゆが》んだポーズに堪え、根気よく真に魅力ある理想を探って行き度《た》い。
底本:「愛よ、愛」メタローグ
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