人と合はない傾向を自分自身に気付いて、それを淋しいものと思つた。
 そのやうな字の傾向は、確かに年少の私が字を習ひ始めに養育母がその緒を与へたからだと言へば言へるが、私自身の生れつきにも原因があつた。今に至るも私は不器用で、物ごとをすら/\運ぶことが出来ない性質である。世の多くの人※[#二の字点、1−2−22]は経験を積むことによつて着※[#二の字点、1−2−22]熟練上達し、同じことをなすには無意識でも反射的に手際よくすることが出来る。ところが、私は、幾度同じことを繰返しても、その都度、全く新奇なことにぶつかつたやうに思へて、全意識を傾倒しなければならない。だから私には、物ごとを経験熟練により反射的に手早く取片づけることは出来ないのである。字もまた、幾度習つても前と決して同じやうな字がすら/\書けない。私は仮名まで漢字を使つてしかつめらしい字を書いた。
 それとまた、幼女時代、はにかみ屋で、控へ目勝ちだつた私は、異常に無口であつたから、言葉によつて表現出来ない鬱屈した感情の吐け口を無意識にも、字に求めたらしいことが今の私の記憶に照し合せて判断される。されば、その鬱情を乗り移らせるのに
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