飲んでは大方ばあやと遊んで帰って行った。かの女は青年が表面は、ばあやと遊んでいても心はかの女に接触している満足で帰って行くのが解っていた。かの女は青年の表面の恬淡《てんたん》さにかえって内部の迫真を感じた。これが青年のいつぞや云った「素焼の壺が二つ並んだような男女の関係」に近いものとして、青年が満足しているのではないかと思えば、青年に対して段々あわれみと好意が持てるようになった。
青年は親しみを増して来るにつれ、あらわに自分の生命の奥にひそむ寂寥をかの女に訴える言葉が多くなり、かの女はそれにあまり深くひき入れまいとする用心で、いよいよ内気を守った。それがなおなおかの女の態度を真剣に沈み入り気重にさせるようになって来た。
「こんないい陽気に内にばかりいらしってもお毒ですから、明日あたり重光さんはお嬢さまを、散歩にでもお連れなすってはいかがですか」
ばあやは青年一人にかの女を預けるのを何の不安もなげである。かの女もまた………この青年にかぎって不安を感じることが寧ろ自分の恥のようにさえ思われる。
「そうですね」
と重光は考えていたが
「だいぶ永い間ご馳走になりましたから、それじゃお嬢さ
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