性を求めて止まないんだ。地球があと何万年したら冷えて人類の滅亡が来るとするか僕達の永世をかけての文学と哲学も同時に滅亡することを考えても怖ろしいじゃないか。
[#ここで字下げ終わり]
 ……また
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――僕達がこうして自然に憧憬《しょうけい》して此処《ここ》を歩いているね。僕達は落つる太陽を睨《にら》み、小鳥の声に聞き惚れ、森を愛し道路を懐《なつか》しんでさ、そして口笛を吹いたり君と合唱したりね……こんなに自然を愛して自然に打ち込んでいたって自然は果して僕達を愛しているだろうか、愛しているだろうかよりむしろ非常に無関心じゃないのかい。今、突然僕か君が此処で倒れたっきりで死んでしまうとするね。その時、あの森の樹の枝の一つだって死んだ僕達のために感動するだろうか。恐らくそのために、あの樹の枝の若葉の一つだって風に微動する程にも感動しないだろう。(自然が人間に対する無関心はツルゲニエフの猟人日記中、森で樵夫《きこり》が倒れ、大木の下積みになりその大木が樵夫を殺す作を見てから兄が一層痛感しているのであった。)
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 だが、妹はまだ
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