充分でない上にすぐと悪漢達に追いかけられたりして、姫は全く不安と饑えとで、疲れ果ててしまったのでした。
 姫は言い終ってさめざめと泣きました。
「せっかく、救《たす》けて頂いたようなものの、行先の覚束《おぼつか》なさ、途中《とちゅう》の難儀《なんぎ》、もう一足も踏み出す勇気はございません。いっそこの川へ身を投げて死にとうございます」
 またさめざめと泣き続けます。昭青年はこれを聴《き》いて腸《はらわた》を掻《か》き毟《むし》られるような思いをしました。そして、彼女《かのじょ》を救う一番いい方法は、寺へ頼《たの》んでしばらく国元の様子の判るまで置いてもらうことだと思いましたが、乱世の慣《なら》わし、同じような悲運な事情で寺へ泣付いて来る者がたくさんあって、それをいちいち受容《うけい》れていたのでは寺が堪《たま》りません。まして女人の身、いっそう都合《つごう》が悪いのです。寺で断られるのは知れ切ったこと。しかたなく昭青年は言いました。
「まあ、生きておいでなさい。どうにかなりましょう。食事は私が粗末《そまつ》ながら運んで来ますから、しばらくこの辺のどこかに忍《しの》んでおいでなさい。人に見
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