て、夫狐は売り渡されたが最後、生肝《いきぎも》をとらるる由《よし》なそうにございます。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――それは、さぞ、心痛なことであろう。だがここが肝腎なところだ。一体狐にもそういう場合に、人間と同じように愁嘆があるものか知らん。
――ご冗談|仰言《おっしゃ》っては困ります。生きとし生けるものの嘆きに人《ひと》、けだものの変りがございましょうか。
――だったら、一つ試しに詳しく聞かして呉れ給え、参考になる。そうなあ、狐には通力というものがあるそうだから、一つその嘆きを形の振りごとにして示して貰い度い。すりゃわたしたちに取っても稀代《きたい》の見聞さ。
――拙《つたな》い手振り、恥しながら、夫の身のため……。
――二見氏、その酒筒を出せ、この床几《しょうぎ》に腰かけて一ぱいやりながら、見物しよう。
――ばかばかしい。それこそわざと狐に化かされることの深味へ嵌《は》めて呉れと注文するようなものだ。気がついて見れば、あしたの朝は小川の行水にでもつかっているぞ。
――まあ任して置け、こっちへ来い。
――では……。
[#ここから3字下
前へ
次へ
全16ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング