だな。
――何の用ですか。
[#ここから3字下げ]
女あたりを見廻して
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――誰も聞いてるものは居ないでしょうか。少し内密|咄《ばな》しなのですが。
――見らるる通り、あたりに人影とてはない。在るものは欅並木に、冬の月、仕舞って帰った茶屋の婆が、仕舞い忘れた土産の木菟《みみずく》。形は生ものでも実は束ねた苅萱《かるかや》。これなら耳があったとて大事なかろう。
――では申し上げます。わたしは人間ではございません。狐でございます。
――さては評判のこの界隈《かいわい》の狐だな。
――狐、結構、だがめったに正体を現わすな。いつまでもその美女のままでいて呉れ。
――お恥かしうございます。
――はにかむところは一入《ひとしお》艶だ。
――おれは、君ほど観照してる余裕はない。女狐さん用ならさっさと話して呉れ。
――では申し上げます。お頼みがあるのでございますが……。
――ちょっと待った。あらかじめ聞いて置くのだが、その頼みの筋というのは色っぽいことか、それとも野暮なことか。
――野暮なことでございます。
――そうか。そいつは
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