うことだ。
――それを知って貴公はどこが面白い。
――貴公はまた誑かされてどこが面白い。
――おれは十金で美しい夢を購ったつもりだが。
――えっ。
――だが、あの女はやっぱり狐じゃぞ、(大きな声にて)もしまだその辺にいるなら、その狐は女でない証拠にこんこんと鳴く筈だ。いやさ、女狐というものは恋い初め男のいうことは何でも素直にきくものだわ。やい、もしその辺に居らば一つ鳴いて見ろ、これ女狐……
[#ここから3字下げ]
おかん、藪の中にて袂《たもと》を食いしばり忍び泣きを我慢しつつ
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――は、はい……こん……こん。
――どうだ二見氏。
――妙だな。
――いや、あの鳴声を聞くと、さすが強気のおれも腹に沁みて、狐恋しうなる。(腕組)おれも鳴いてみたくなった。(恨然《ちょうぜん》として)こん、こん。
[#ここから3字下げ]
霰の音激しくなる……
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――こん、こん……、こん……
――こん、こん……こん、こん……
[#ここから3字下げ]
鈴懸のこん、こん、と藪の中の女の泣き乍らのこん、こん、と交り合いつつ
[#ここで字下げ終わり]
底本:「岡本かの子全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年7月22日第1刷発行
底本の親本:「巴里祭」青木書房
1938(昭和13)年11月23日
初出:「文学界」
1938(昭和13)年1月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年3月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全8ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング