き合ってみると亡き母に生うつしの姉だった。千歳は、そこにこの姉への懐しみといとしさを感じた。
千歳は、くるりと姉の方へ向直った。そして、姉の左の手へ自分の右の手の指を合せながら、
「じゃ、まあ、行ってみるわ」
「そうなさい、そうしてよ」
千歳は、この姉が、自分に出来ないことはいつも妹にして貰《もら》い、それによって様子の脈をひく性分であることも充分承知していた。
千歳が、明日の朝の箱根行きの仕度《したく》をしに部屋へ引取ろうとすると、仲子は鼻声で言った。
「ちょっと、あたしに、その電報|頂戴《ちょうだい》よ」
五月の薄曇りの午前に、千歳は箱根湯本の玉屋の入口の暖簾《のれん》を潜った。入れ違いに燕《つばめ》が白い腹を閃かして出た。
「やあ、来ましたね。よく来ましたね」
明るい外から入って来たので、千歳の眩《くら》んだ眼にはよく判からなかったが、慶四郎は支度して玄関へ出て待っていたらしい。
「あら、病気だなんて……電報うったくせに」
「嘘じゃなかったけど、もう直った」
「まあ……」
千歳が呆れるのも構わずに、慶四郎は無造作に千歳の肩を掴《つかま》えて向を変えさせ、腕を抱えてぐ
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