や》いた。
「行って上げなさい。お父さまには破門になってるし、私は家を取締っているし、あんたよりほかだめだと思ってだわ」
事実、千歳の家では老父と姉妹の三人のほか家族として誰もいなかった。
「病気して、お金にでも困っているのね」
「そうよ、窮したら外に言って行くところも無い人だもの。家だって、千歳さんが慶四郎さんとは一番遠慮なくしてたんだから」
「でも、お父さまが、どう仰有《おっしゃ》るかしら」
「それは、私がとりなしとくわ」
千歳は、姉のいう言葉が、いちいち尤《もっと》もだとは思った。だが、こういう常識的なとりなし[#「とりなし」に傍点]の分別ばかりあって、一度自分の婿《むこ》まで定りかけ、お互いの間にやや濃厚な気持さえ醸《かも》したらしい慶四郎の病気を、いくら名ざして来たとて妹の自分に任せようとする姉の陰性も嫌いだった。
姉は、薄皮の瓜実《うりざね》顔に眉が濃く迫っている美人で、涙っぽい膨《は》れ目は艶ではあるが、どんな笑い顔をも泣き笑いの表情にして、それで平生は無難なまとまった顔立ちでも単純だった。たとえ、それが姉であっても千歳には何か飽足りないもどかしい感じだった。だが向
前へ
次へ
全13ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング