呼ばれし乙女
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)彷徨《うろつ》い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)電報|頂戴《ちょうだい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きめ[#「きめ」に傍点]
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 師の家を出てから、弟子の慶四郎は伊豆箱根あたりを彷徨《うろつ》いているという噂《うわさ》であった。
 一ヶ月ばかり経つと、ある夜突然師の妹娘へ電報をよこした。
「ハコネ、ユモト、タマヤ、デビョウキ、アスアサキテクレ」
 受取って玄関で開いた千歳は、しばらく何が何やら判らなかった。慶四郎と姉となら、一時、ああいう話もあったのだから呼出すもよい。妹の自分を名指して何故だろう――いつの間にか姉娘の仲子が、千歳のうしろに来て、電報を覗き込んでいた。脆《もろ》くて、きめ[#「きめ」に傍点]が濃《こま》かく、寂しい気配の女であった。千歳はそのまま姉へ肩越しに電報を読み取らせた。仲子はそのまま千歳の脊中でじっと考えていたが、やがて臆病に一本の華著《きゃしゃ》な指先きで妹の脊筋を圧して、いつもの仲子のひそやかな声で囁《ささ
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