一体になって時を経過して行った。彼女は自然そのままだった。悠久の命の流れに寂然と身を委《まか》せて居た。国亡びた後の山河に、彼女は独り生き残って居るようであった。彼女は自分と現世とをまったく忘れて居た。
 突然、彼女は身近くを、そそくさと通り過ぎて行く二人連らしい女の足音に驚かされた。彼女は何か非常に恐ろしかった。自分をこれほど無力に感じた時は今までに無かった。息を殺して警戒した。彼女のとぎすまされた聴覚に別な男性らしい二人連れの近づいて来る音をも聞き分けた。
 ――|おい《ハロウ》、|相手が見付かったかい《ゴットアマン》。
 ――……………………………
 土曜の晩近くなって急に遊び相手をあわてて求め出した男連れが、当り触りの無いように軽く女連れに誘いをかけたらしかったのだ。なんだ、そんな人達だったのか――と彼女はほっとした。呼びかけられた女達は何とも言わなかった。そして男も女も遠のいて行ってしまった。彼女は、男達の投げた誘いの網を、女達がどうあしらうかと一寸好奇心を起した。だが女達は相手にもならずに去って行った。なんでも無い人事の期待外れは、変な風に彼女自身の内に返答を求めた。「相手
前へ 次へ
全25ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング