げた上へ載せた。男達は合図をつまらなそうに待った。
――用意、――始め!
――ぱん。
二人は同時に口を弾いて怒鳴った。ワルトンは自分の左胸を両手で押えて、わざと芝生の上に倒れた。
――射たれた。
ワルトンは倒れると直ぐ少しおどけた風に細眼を開けてアイリスの機嫌を覗いた。
――は、は、は、は。
無力な声でアイリスは笑った。妙に情け無い顔をして彼女は笑った。今では彼女は男達が何をしようと構《かま》わない気がした。実際どうでもよかった。が、それでも余りに男達の決闘の真似事があっけなくて不満だったし、もう少し男達に離れて居て貰いたかった。
彼女は詰らなそうに小首を傾げて停って居た。ジョーンは何事も無かったように無表情な顔付きで、ピストルの形をした右手を下げて元の場所に突っ立って居た。それでも硬ばった気持ちがまだ胸にのこって居た。生来陽気であったワルトンは此の冷やかに淀んだ気配の中に住む事は寸刻も出来なかった。何かをふっとばしたかった。そうしたら何かそのあとから大変気に入った事でも出現するように思えた。そこで彼は強いて弾んだ調子でジョーンに飛び付いた。
――おい、レスリングをし
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