愚なる(?!)母の散文詩
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)充分官[#「官」に「ママ」の注記]覚の
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わたしは今、お化粧をせつせとして居ます。
けふは恋人のためにではありません。
あたしの息子太郎のためにです。
わたしの太郎は十四になりました。
そして、自分の女性に対する美の認識についてそろそろ云々するやうになりました。
太郎の為にも、わたしはお化粧をしなくてはなりません。太郎が、いまにいくら美しい恋人を持つとしても、マヽが汚なくては悲観するでせう。さういふ日の来ない先から、わたしはせつせとお化粧します。けふは恋人の為にではありません。太郎の為に未来のずつと未来までも、美くしいマヽであり度いお仕度の為にせつせとお化粧のお稽古です。
いまに美くしい恋人を持つても、つひ傍のマヽが汚なくては太郎も悲観せざるを得ないでせう。美しい恋人に美くしいマヽ、それでなければ、太郎の幸福は完全でないでせう。現在だとて、けふの今にも太郎は学校から帰ります。お菓子をもらふより先きに太郎はマヽを見ます。その時
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