入用の量にはなるだろうと思ったのである。
 宴会の日が来た。男はしてやったり[#「してやったり」に傍点]と許《ばか》り牝牛の乳を搾った。そしたら牝牛の腹からはやっぱり一日分の分量しか牛乳は出なかった」

       ○

「何か勲功《てがら》があったので褒美《ほうび》に王様から屠《ほふ》った駱駝《らくだ》を一匹|貰《もら》った男があった。男は喜んで料理に取りかかった。なにしろ大きな駱駝一匹料理するのであるから手数がかかる。切り剖く庖丁はじき切れなくなって何遍も研《と》ぎ直さねばならなかった。男は考えた。こう一々研ぎ直すのでは手数がかかってやり切れない。一遍に幾度分も研いどいてやろう。そこで男は二三日がかりで庖丁ばかり研ぎにかかった。
 かくて、庖丁の刃金は研ぎ減り、駱駝は暑気に腐ってしまった」

       ○

「やはり愚な男があった。腹が減っていたので有り合せの煎餅《せんべい》をつまんでは食べた。一枚食べ、二枚食べして行って七枚目の煎餅を半分食べたとき、彼の腹はちょうど一ぱいになったのを感じた。男は考えた、腹をくちく[#「くちく」に傍点]したのは此の七枚目の半分であるのだ。さす
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