来栄えが目に止まった。そこで男は知人に其の塗り方を訊いてみた。知人が言うには、此の壁は土に籾殻《もみがら》を混ぜて塗ったので斯《こ》う丈夫に出来たのであると答えた。
 愚な男は考えた。土に籾殻を混ぜてさえああ美事に出来るのである。一層、実の入っている籾を混ぜて塗ったらどんなに立派な壁が出来るだろう。そして今度は自分の家を新築する際に、此のプランを実行してみた。そしたら壁は腐った」
 以上二話とも、あまり意気込んで程度を越した考えは、却《かえ》って不成績を招くという道理の譬《たと》え話になるようである。

       ○

「或るところに狡《ずる》くて知慧の足りない男があった。一月ばかり先に客を招んで宴会をすることになった。ところで其の宴会に使う牛乳であるが、相当|沢山《たくさん》の分量が要るのである。
 それを其の時、方々から買い集めるのでは費用もかかり手数もかかると、男は考えたのである。そこで知人から乳の出る牝牛を一ヶ月の約束で賃借りして庭に繋《つな》いで飼って置いた。
 牝牛の腹から出る牛乳を毎日|搾《しぼ》らずに牝牛の腹に貯めて置いたなら、宴会までには三十日分のものが貯って充分
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