》らしく胸を反らしたまま軽く目礼した。復一はたじろいで思わず真佐子の正面を避《さ》けて横を向いたが、注意は耳いっぱいに集められた。真佐子は同伴《どうはん》の友達に訊《たず》ねられてるようだ。真佐子はそれに対して、「うちの下の金魚屋さんとこの人。とても学校はよくできるのよ、」と云った。その、「学校はよくできる」という調子に全く平たい説明だけの意味しか響《ひび》くものがないのを聞いて復一は恥辱《ちじょく》で顔を充血《じゅうけつ》さした。
 世界大戦後、経済界の恐怖に捲込《まきこ》まれて真佐子の崖邸も、手痛い財政上の打撃《だげき》を受けたという評判は崖下の復一の家まで伝わった。しかし邸を見上げると反対に洋館を増築したり、庭を造り直したりした。復一の家から買い上げて行く金魚の量も多くなった。金魚の餌《えさ》を貰《もら》いに来た女中は、「職人の手間賃が廉《やす》くなったので普請《ふしん》は今のうちだと旦那《だんな》様はおっしゃるんだそうです」といった。崖端のロマネスクの半円祠堂型の休み場もついでにそのとき建った。
「金儲《かねもう》けの面白さがないときには、せめて生活でも楽しまんけりゃ」
 崖か
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