けなく、くるりと向き直って、再び復一と睨《にら》み合った。少女の泣顔の中から狡《ず》るそうな笑顔《えがお》が無花果《いちじく》の尖《さき》のように肉色に笑み破れた。
「女らしくなれってどうすればいいのよ」
復一が、おやと思うとたんに少女の袂の中から出た拳《こぶし》がぱっと開いて、復一はたちまち桜の花びらの狼藉《ろうぜき》を満面に冠《かぶ》った。少し飛び退《すさ》って、「こうすればいいの!」少女はきくきく笑いながら逃げ去った。
復一は急いで眼口を閉じたつもりだったが、牡丹《ぼたん》桜の花びらのうすら冷い幾片《いくへん》かは口の中へ入ってしまった。けっけと唾《つば》を絞《しぼ》って吐き出したが、最後の一ひらだけは上顎《うわあご》の奥《おく》に貼《は》りついて顎裏のぴよぴよする柔《やわらか》いところと一重になってしまって、舌尖で扱《しご》いても指先きを突《つ》き込んでも除かれなかった。復一はあわてるほど、咽喉《のど》に貼りついて死ぬのではないかと思って、わあわあ泣き出しながら家の井戸端《いどばた》まで駆けて帰った。そこでうがいをして、花片はやっと吐き出したが、しかし、どことも知れない手の
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