て復一の変態的な苛め方はだんだん烈《はげ》しくなった。子供にしてはませた、女の貞操《ていそう》を非難するようないいがかりをつけて真佐子に絡《から》まった。
「おまえは、今日体操の時間に、男の先生に脇《わき》の下から手を入れてもらってお腰巻のずったのを上へ上げてもらったろう。男の先生にさ――けがらわしい奴《やつ》だ」
「おまえは、今日鼻血を出した男の子に駆《か》けてって紙を二枚もやったろう。あやしいぞ」
そして、しまいに必ず、「おまえは、もう、だめだ。お嫁《よめ》に行けない女だ」
そう云《い》われる度に真佐子は、取り返しのつかない絶望に陥《おちい》った、蒼ざめた顔をして、復一をじっと見た。深く蒼味がかった真佐子の尻下《しりさが》りの大きい眼に当惑《とうわく》以外の敵意も反抗《はんこう》も、少しも見えなかった。涙《なみだ》の出るまで真佐子は刺《さ》し込《こ》まれる言葉の棘尖《とげさき》の苦痛を魂《たましい》に浸《し》み込《こ》ましているという瞳《ひとみ》の据《す》え方だった。やがて真佐子の顔の痙攣《けいれん》が激《はげ》しくなって月の出のように真珠色《しんじゅいろ》の涙が下瞼《したまぶ
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