ころ真佐子から来た手紙はこうだった。
「あなたはいろいろ打ち明けて下さるのに私だまってて済みませんでした。私もう直《じ》きあかんぼを生みます。それから結婚します。すこし、前後の順序は狂《くる》ったようだけれど。どっちしたって、そうパッショネートなものじゃありません」
復一はむしろ呆然《ぼうぜん》としてしまった。結局、生れながらに自分等のコースより上空を軽々と行く女だ。
「相手はご存じの三人の青年のうちの誰でもありません。もうすこしアッサリしていて、不親切や害をする質の男ではなさそうです。私にはそれでたくさんです」
復一は、またしても、自分のこせこせしたトリックの多い才子《さいし》肌《はだ》が、無駄《むだ》なものに顧《かえり》みられた。この太い線一本で生きて行かれる女が現代にもあると思うとかえって彼女にモダニティーさえ感じた。
「何という事はないけれど、あなたもその方と結婚した方がよくはなくって。自分が結婚するとなると、人にも勧めたくなるものよ。けれども金魚は一生懸命《いっしょうけんめい》やってよ。素晴らしい、見ていると何もかも忘れてうっとりするような新種を作ってよ。わたしなぜだかわ
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