う」
「でも世界中を調べるわけに行かないし、考え通りの結婚なんてやたらにそこらに在るもんじゃないでしょう。思うままにはならない。どうせ人間は不自由ですわね」
それは一応絶望の人の言葉には聞えたが、その響《ひびき》には人生の平凡を寂しがる憾《うら》みもなければ、絶望から弾《は》ね上って将来の未知を既知《きち》の頁《ページ》に繰《く》って行こうとする好奇心《こうきしん》も情熱も持っていなかった。
「そんな人生に消極的な気持ちのあなたが僕のような煮《に》え切らない青年に、英雄的な勇気を煽《あお》り立てるなんてあなたにそんな資格はありませんね」
復一は何にとも知れない怒《いか》りを覚えた。すると真佐子は無口の唇を半分噛んだ子供のときの癖を珍らしくしてから、
「あたしはそうだけれども、あなたに向うと、なんだかそんなことを勧めたくなるのよ。あたしのせいではなくて、多分、あなたがどこかに伏《ふ》せている気持ち――何だか不満のような気持ちがあたしにひびいて来るんじゃなくって、そしてあたしに云わせるんじゃなくて」
しばらく沈黙《ちんもく》が続いた。復一は黙って真佐子に対《むか》っていると、真佐子の
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