のとき、真佐子の周囲には、鼎造のいわゆるよその雄で鼎造から好意を受けている青年が三人は確《たしか》にいて、金|釦《ボタン》の制服で出入りするのが、復一の眼の邪魔《じゃま》になった。復一の観察するところによると、真佐子は美事《みごと》な一視《いっし》同仁《どうじん》の態度で三人の青年に交際していた。鼎造が元来苦労人で、給費のことなど権利と思わず、青年を単に話相手として取扱《とりあつか》うのと、友田、針谷、横地というその三人の青年は、共通に卑屈な性質が無いところを第一条件として選ばれたとでもいうように、共通な平気さがあって、学費を仰《あお》ぐ恩家のお嬢さんをも、テニスのラケットで無雑作に叩《たた》いたり、真佐子、真佐子と年少の女並に呼び付けていた。一ぴきの雌に対する三びきの雄の候補者であることを自他の意識から完全にカムフラージュしていた。それが真佐子にとって一層、男たちを一視同仁に待遇《たいぐう》するのに都合《つごう》がよかったのかも知れない。
崖邸の若い男女がそういう滑らかで快濶《かいかつ》な交際社会を展開しているのを見るにつけ、復一は自分の性質を顧《かえり》みて、遺憾《いかん》とは重々知りつつ、どうしても逆なコースへ向ってしまうのだった。誰《だれ》があんな自我の無い手合いと一しょになるものか、自分にはあんな中途《ちゅうと》半端《はんぱ》な交際振りは出来ない。征服《せいふく》か被《ひ》征服かだ。しかし、この頃自分の感じている真佐子の女性美はだんだん超越《ちょうえつ》した盛り上り方をして来て、恋愛《れんあい》とか愛とかいうものの相手としては自分のような何でも対蹠的《たいしょてき》に角突き合わなければ気の済まない性格の青年は、その前へ出ただけで脱力《だつりょく》させられてしまうような女になりかかって来ていると思われた。復一はこの頃から早熟の青年らしく人生問題について、あれやこれや猟奇的《りょうきてき》の思索《しさく》に頭の片端を入れかけた。結局、崖の上へは一歩も登らずに、真佐子がどうなって来るか、自分が最も得意とするところの強情を張って対抗してみようと決心した。到底《とうてい》自分のような光沢《こうたく》も匂《にお》いもない力だけの人間が、崖の上の連中に入ったら不調和な惨敗《ざんぱい》ときまっている。わけて真佐子のような天女型の女性とは等匹《とうひつ》できまい。交際《つ
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