ちろん少女のことなので、いふ言葉はあどけない。しかし、このあどけないものに、もつと大人の言葉を置き換へたら情緒を運ぶ順序においては、もうそれは少女のものではない。立派に成熟した一人前の男に對する口説き方だ。西原氏は怖ろしくなつて、少女を思ひ切つて睨み据ゑた。そして腹のなかでかういひ据ゑた――お前にさういはせるのは何者だ、どの魄だ。
母親は母親で、おろ/\してゐる。
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――あ、そんなことだけはいくらなんでも、先生の前でいはない樣にと、あれほどいつて置きましたのに、やつぱり頭の狂つてゐるものに、何と申し聞けて置きましても仕方が御座いませんのですねえ。
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そして、不躾をくり返し/\西原氏の前にあやまる母親はもういくらか涙聲にさへなつてゐる。それを傍耳に聞きながら西原氏はひるまず少女を見据ゑてゐたが、何も發見することは出來なかつた。そしてをかしなことには少女の顏は前に默つて西原氏を見惚れてゐたときも、これほど纒綿とした情緒を披瀝するときにも、筋一すぢ表現を換へない。磨き出されたやうな美人型の少女顏は、生きた動きのない人形の
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