は斷言出來ます。――さきは九歳のこどもですよ。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――會社の重役のお孃さんですよ。
[#ここで字下げ終わり]
 なんと驚いたでせう、といふ氣持ちを、すこしふら/\する手つきに出して西原氏はわれわれにこの話へのより多くの注意を促した。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――僕が目黒の競馬場の奧に棲んでゐたとき、あの邊は開けたばかりだから坂が非常に多かつた。
[#ここで字下げ終わり]
 西原氏はそこでまた、一つ杯を取り上げ口へ運びながら私を上目で視て
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――それ、あなたが、僕のあの家へ始めて尋ねて來たでせう、そして、僕んところへ持つて來るメロンを抱きながらあなたは坂を下つて來た。夕陽があまり綺麗だから、あなたは見惚れながらあの坂を降りて來た。すると、中途で石に下駄を奪られ、つまづく拍子にあなたの手に持つてゐたメロンが坂からころ/\ところげ落ちちまつた。あの下が谷でメロンがたうとう見つからなかつた、あの坂ね、あの坂のところで僕はそのお孃さんに見染められたんですよ。
[#ここで字下げ終わり]
 
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